花葬儀を選んだ理由
お寺のサイトに掲載されていた葬儀社の中で、いちばん電話対応が丁寧でした。
気丈で何より無駄を好まなかった妻は、自分の死期を悟ったときに、夫であるわたしに「家族葬」にしてほしいと希望しました。亡くなった自分のために余計なお金を使う必要はないと考えてのことだったでしょう。儀礼的な葬儀に意味を見出せなかったのかもしれません。
わたし自身も妻と価値観は同じでしたので、ごく少数の身内を呼んで、つつがなく終わればそれで良しと思い、家族葬に賛同しました。ですから、葬儀社にこだわる気持ちは、いっさいありませんでした。
葬儀社を探し始めたのは、妻が危篤状態になったときです。葬儀を決めていた妙蓮寺のサイトに葬儀社の広告が並んでいるのを見つけ、その、いちばん上にあったのが花葬儀さんでした。「もう、ここでいかな」とも思ったのですが、一応、ほかにも2社ほど電話で相談をしてみたところ、花葬儀さんの対応がもっとも好感が持てたので、即決しました。
葬儀にも、葬儀社にも、特別な期待はしていませんでしたから、成り行きで決めたというのが本当のところです。ただ、この偶然の出会いが、わたしの葬儀に対する考え方を根底から覆す機会となりました。
花葬儀を体験して良かったこと
趣味のゴルフの服や道具が飾られ、本当に世界でひとつの葬儀になりました。
実は、通夜・告別式のない家族葬と決めていたのですが、急遽、告別式を行い、参列者も限定しない葬儀に変更をしました。家族葬であるため参列を控えていただきたい旨を伝えた友人から、「気持ちはわかるけれど、なんとかお別れをさせてほしい」と返事があり、断り切れなかったからです。その方だけを特別扱いはできませんので、告別式のみですが誰でも参列できることとしました。葬儀の数日前の変更にもかかわらず、プランナーの方は嫌な顔ひとつせず、むしろ気持ちに寄り添って、完璧な段取りで葬儀の日を迎えさせてくれました。
そして圧巻は、会場づくりです。8月のお盆の時期だったため、葬儀会場が予約でほぼ埋まっており、いちばん大きな会場しかとれませんでした。当初、参列者は数人の予定でしたから、だだっ広い場所に小さな祭壇では、閑散とするのではないかと大いに不安になりました。しかし、プランナーの方に相談すると、思いもよらないさまざまなアイデアを出してくださったのです。
そのひとつが、妻の趣味だったゴルフやトレッキングのメモリアルコーナーの設置でした。祭壇の左右にハンガーラックを置き、ゴルフやトレッキングのウェアを何着も掛け、ゴルフバッグやクラブ、リュックサック、登山靴などを置きました。
そばに季節と妻のイメージを反映した背の高いひまわりも飾っていただき、あんなに広かった空間全体が華やかで、あたたかな雰囲気に包まれました。嬉しいことに、参列した方々がウェアなどを譲ってほしいと言ってくださり、期せずして形見分けもできました。
奥様はどんな方でしたか?
何しろ、楽しくて面白い人。夫婦でゴルフをしたり日本全国を旅して、楽しい思い出しかありません。

2人で、よく旅行をしました。特にわたしが50歳を過ぎたころから1年に4回は、休暇を取って日本中をめぐりました。妻の提案で、新幹線に乗って日本全国をまわるツアーに参加したこともあります。旅先での妻の写真は山ほどあるのですが、どれも変なポーズの写真ばかりで――笑ってしまいます。
とにかく、一緒にいて、楽しく、面白い人だった。終末期に入ったときに「結婚してくれて、ありがとう」と言うと、「こちらこそだよ、楽しかった」と返事をされたときは、この人が妻でよかったと心底思ったものです。
命をいつくしむ妻がウサギを拾ったことで、愛犬が2人の家族になりました。

わたしたちに子どもはいませんが、とても大切な家族として愛犬がいます。きっかけは、夫婦の趣味がゴルフだった時期のある日の出来事です。ゴルフ場に行くと、階段の真ん中に野ウサギの赤ちゃんが2羽うずくまっていて、妻はそれを見過ごせず、段ボールに入れて自宅に連れ帰りました。
数日はミルクなどをあげていましたが、容態が悪化して動物病院に診せに行き、医師から「近くに親がいたはず。勝手なことしちゃダメだよ」と、ひどく怒られてしまいました。結局、亡くなって、しょげる妻を励まそうと、犬を飼うことに――。以来、妻は愛犬を心からいつくしみ、3人家族になりました。
最期まで、わたしを気遣い、明るく気丈に振る舞う、本当に強い人でした。

右:広島県江田島の旧兵学校前でのお写真
妻は卵巣がんで亡くなったのですが、発覚した発端は脳梗塞です。自宅で倒れ、救急車で運ばれた病院で検査した結果、原因はがんであるとわかりました。それまで、病気とは無縁でしたから、本人の心のダメージは、いかばかりであったかと想像できます。
でも、落胆した様子はいっさい見せませんでした。がんの宣告をした主治医から、「あそこまで、動揺せずに受け止める人は見たことがない」と驚かれたほどです。見舞いに行くと、「半べそかきながら来ないでくれ。明るい顔で来なよ」 と言われました。最期まで、わたしを気遣い、わたしのほうが助けられました。
こんなご葬儀でした


お式への要望
湿っぽいのが嫌いな妻だったので、明るく元気に送りたい。
〇湿っぽいのが嫌いだったので、明るく見送れる葬儀にしたい。
〇元気で、面白い妻のイメージに合う、オレンジや黄色の花をメインに使ってほしい。
〇広い会場しか予約できなかったため、閑散とした雰囲気にならないような工夫を。
実際のご葬儀
〇黄色やオレンジなどのビタミンカラーの花を中心に、奥様らしい元気で明るいイメージの祭壇をおつくりしました。
〇広い会場に奥行を出すため、季節の花のでもある背の高いひまわりを祭壇の両サイドに配置しました。
〇奥様のご趣味だったゴルフやトレッキングのウェアや靴、バッグなどを集め、広いスペースをとってメモリアルコーナーを設けました。
〇ご夫婦で行かれた旅行先での記念写真を祭壇やメモリアルコーナーに飾りました。
〇ゴルフがお好きだったとお聞きしたので、「とらや」のゴルフボールを模した最中『ホールインワン』をお供えしました。
葬儀を終えての感想はいかがですか?
旅行の写真を集めた「思い出のアルバム」に、葬儀の写真も加えました。2人といない妻の記録として、2つと無い葬儀も大切な思い出です。

右:奥様のためにDIYで作ったお仏壇
参列者から、「とてもよい葬儀だった」と、うれしい感想をたくさんいただきました。ただ、それは想定内で、想定外の反響もあったのです。
打ち合わせでプランナーの方から、出棺のときのBGMについて尋ねられ、別に妻が好きだったわけでもないのにパッと思いついたのが、カーペンターズの「イエスタデイ・ワンス・モア」でした。
後日、参列した方と集まった際、「出棺で曲が流れたとき、想いが込み上げて――。自分の葬儀でも流す曲を決めておく」と大いに盛り上がりました。細かい部分にまでこだわった記憶に残る葬儀でした。
妻との旅行の写真を集めた「思い出のアルバム」があるのですが、それに葬儀の写真も加えました。2人といない妻の記録として、この世に2つと無い妻の葬儀の写真は、わたしにとって大切な思い出です。最後にすばらしい思い出をつくれたことを妻に報告してから数年がたちますが、今でもいろいろなことを妻に話しかけつづけ、なんと月命日には欠かさず、お墓参りにも出かけています。
不思議なのですが、お墓参りに出かけて雨に降られたことが一度もありません。わたしの思いもかけない報告と、話しかける言葉を妻が喜んでくれているからだと勝手に解釈しています。
エピソードとお写真、映像は、ご家族様のご許可をいただいて掲載しております。