30代の方が「終活」という言葉を聞いたとき、「まだ早い」と感じることも多いでしょう。かつて終活といえば、高齢者が行うものというイメージが一般的でした。しかし、終活はもはや「死への準備」ではなく、「今と未来をより良く生きるためのライフデザイン」だと捉えられています。

今回は、30代の終活が早くない理由や、30代だからこそ得られるメリット、無理なく始められる手順をわかりやすく解説します。ぜひ最後までお読みください。

1.30代が共感する「生き方の見直し」

かつて終活といえば、「高齢者が行う、死に向けた準備」というイメージが一般的でした。しかし、その捉え方はもう古いと言えるでしょう。

近年、終活は「今をどう生きるか」を見つめ直し、自分らしい生き方を選択していく前向きな行為であるという価値観が広がりつつあります。この価値観の変化を象徴するのが、終活をテーマにしたドラマや漫画の登場です。

たとえば、NHKドラマ『ひとりでしにたい』では、30代の女性が自分の最期について考え始め、「ひとりで死ぬこと＝自立した生き方」と気づく姿が描かれました。作中で主人公の女性が自身の最期と向き合う姿は、多くの同世代が漠然と抱いていた「自分らしい人生とは何か」という問いと重なり、話題となりました。

情報感度の高い30代にとって、自分らしい生き方を模索する手段として、終活が注目されていることの表れと言えるでしょう。

出典：ひとりでしにたい｜NHK
https://www.nhk.jp/p/hitorideshinitai/ts/M6X7266P6P/

2.ライフイベントが重なる30代だからこそ、終活のメリットは大きい

では、終活を30代から始めることには、具体的にどのような利点があるのでしょうか。30代ならではの主な終活のメリットを解説します。

精神的な余裕があり「前向きな終活」ができる

体力も気力もある30代だからこそ、自分の未来を落ち着いて考える余裕があります。

終活を、病気や老いへの不安を解消するために行うのではなく、「これからどんな人生を歩みたいか」を前向きに考えるきっかけにできるのが、30代の終活の大きな強みです。焦りや切迫感がない世代でもあるため、自分の価値観や理想を整理するのに適したタイミングといえるでしょう。

転職・結婚・育児など「人生の転機」に備えられる

30代になると、転職によって働き方や収入が変わり、「今後の生活設計を見直したほうがいいのでは」と感じることもあります。また、結婚して家計を共有するようになったり、育児に追われて自分のことを後回しにするようになったりすると、「このままでいいのだろうか」と不安がよぎる場面も出てきます。

この年代は、暮らしの土台が大きく変化しやすい時期です。仕事・家庭・親の健康など、複数の課題が一度に押し寄せてくることも珍しくないでしょう。そうした転機に直面する前に、自分の価値観や優先順位を終活を通して整理しておくことは、自分らしい生き方を選ぶための“指針”として必ず役に立つはずです。

考えを伝えることが「家族への思いやり」になる

新たな責任が増えてくる30代だからこそ、予期せぬ事態への備えを考える機会も増えてきます。たとえば、身近な人が急な病気や事故に遭ったり、災害のニュースに触れたりする中で、「何かあったとき、自分のことを誰がどう対応するのだろう」と不安になってしまうこともあるでしょう。

自分に万が一のことが起こったとき、「誰に連絡してほしいか」「どこに大切なものを残してあるか」、そして「何をしてほしくないか」――こうした情報は、元気なうちに身近な人に伝えておくのが理想です。備えに、早すぎるということはありません。終活は、大切な人の負担や迷いを減らす、確かな思いやりにもなります。

3.30代の終活で取り組みたい5つのこと

終活は、難しく考えすぎず、できることから始めましょう。ここでは、30代でも無理なく実践できる、終活の5つのステップをご紹介します。

1.エンディングノートで意思と希望を言葉にする

エンディングノートとは、延命治療に対する希望や財産の管理、大切にしたい人や物について、自分の思いを自由に書き残せるノートです。法的な効力はありませんが、もしものときに備えて、自分の意思や希望を整理するための手段として広く活用されています。

30代のうちは「まだ早い」と感じるかもしれません。しかし、将来について考える場面が増えてくる時期でもあり、自分の考えを言葉にしておくことは、大きな意味を持ちます。

ノートには、いきなり重いテーマから書く必要はありません。まずは「好きな食べ物リスト」「嬉しかった思い出ベスト3」など、ポジティブで簡単な項目から始めてみましょう。大切なのは、自分の考えを書き出す習慣をつけることです。

2.持ち物や人間関係の断捨離を通じて心も整える

30代は、ライフステージの変化に伴い、付き合う人や時間の使い方が大きく変わる時期です。それなのに、昔の趣味の道具が場所を取り、SNSでは疎遠になった知人とのつながりがそのまま・・・ということも珍しくありません。終活における断捨離は、こうした持ち物や人間関係を一度リセットし、「これからの自分に必要なものは何か」を見直していく作業です。

ポイントは、「今の自分に必要か？」を基準に判断することです。何となく参加しているオンラインの集まりや、もう読んでいないメルマガの整理も立派な断捨離です。まずはスマホの連絡先やアプリ一覧など、手を付けやすいものから見直すのもよいでしょう。

3.デジタル遺品の整理で安心を確保する

10代からインターネットに親しんできた30代は、上の世代とは比較にならないほど複雑で膨大なデジタルデータを持っているのが特徴です。

もしこれらを整理しないまま放置してしまうと、個人情報が流出したり、過去のSNSアカウントが悪用されたりする恐れが出てきます。さらに、利用中のサービスが家族に課金され続けるといった、金銭的な負担をかけるかもしれません。

だからこそ、元気なうちに情報を整理しておくことが大切です。まずは、利用しているサービスをリストアップするだけでも大きな一歩になるでしょう。その上で、パスワード管理アプリを使うなど、自分に合ったやり方で情報を整理しておきましょう。

整理のポイントについては、「デジタル終活の進め方」で詳しく解説しております。ぜひ、ご参照ください。

4.保険や資産を見直し、将来の備えを始める

気持ちや持ち物を整理したら、次は、お金まわりのことも見直してみましょう。30代は収入が上がり始めると同時に、住宅ローンや教育費など、これまでとは桁の違う大きさのお金を扱うようになる時期です。だからこそ、万一の備えも、今の自分の状況に合わせて見直す必要があります。

まずは、現在加入している保険の契約書や、銀行口座、証券口座の一覧を一つのファイルにまとめることから始めましょう。全体像を把握することが、具体的な見直しの第一歩となります。

5.“やりたいことリスト”で人生の指針を立てる

終活の最後のステップとして、“やりたいことリスト”を作ってみましょう。「行ってみたい場所」「挑戦したいこと」「会いたい人」などを自由に書き出すことで、自分が本当に大切にしたいものが見えてきます。

このリストに、「こうあるべき」という制限は不要です。「平日の昼間から映画を観る」といった小さなことから、「オーロラを見に行く」といった壮大な夢まで、思いつくままに書き出してみましょう。大切なのは、自分の「やりたい」という気持ちを可視化することです。

4.30代が終活で得られる3つの効果

30代のうちから終活に取り組むことは、日々の暮らしや心の在り方に前向きな変化をもたらします。ここでは、30代の終活によって得られる3つの効果をご紹介します。

暮らしの整理が心の余裕を生む

30代は、公私ともに多忙で、自分自身の暮らしや将来の備えはつい後回しにされがちです。そうした中で、終活の視点から暮らしを見直すことは、心に余裕を取り戻させてくれます。

たとえば、身の回りの持ち物を整理し、使っていないものを手放すだけでも、生活空間にゆとりが生まれ、気持ちが落ち着きます。また、大切な書類や医療・保険などの情報を整えておけば、「いざというときにも慌てずに済む」と思える安心感が芽生えます。

自分の暮らしで気になりつつ後回しにしていたことを、少しずつ片づけていく――その積み重ねが、漠然とした不安を減らし、日々の選択をシンプルにしてくれ、忙しさの中にも心の余裕が生まれてくるのです。

最期を意識すると「本当にやりたいこと」が見えてくる

終活を通じて最期を意識すると、人生を長いスパンで見渡せるようになります。視野が広がることで、「今の自分は何を大切にすべきか」「どんな時間を過ごしたいか」といった問いが浮かび、日々の生活にも自然と目が向き始めます。

このように日々の生活に対する意識が変わると、日常の慌ただしさに流されず、自分にとって本当に意味のある行動を選び取れるようになるでしょう。

普段は話しにくいテーマが家族の絆を深めるきっかけに

医療や介護、万一のときの希望などは、どこか重たくて、日常では口にしづらい話題です。けれども、終活を通してこうしたテーマをご家族と共有することで、お互いの考え方や想いに触れる機会が生まれます。

30代は、ご自身がご家族を支える側になり始める時期でもあります。だからこそ、自分の意思を伝えたり、ご家族の希望を聞いたりすることが、信頼関係を育てる土台になります。少し勇気のいる会話かもしれませんが、それがご家族の距離を近づけるきっかけになるはずです。

5.家族構成によって終活のポイントは異なる

同じ30代でも、独身か既婚か、子どもがいるかどうかなどで、終活の考え方や備えの優先順位は変わってきます。ここでは、家族構成に応じた終活のポイントを解説します。

【おひとりさま】自分の意思を託す準備と「つながり」が鍵

30代の独身者にとっての終活は、「いつか結婚するかもしれない」「このまま一人かもしれない」と将来が定まらないからこそ、重要な備えになります。

財産や持ち物の整理だけでなく、自分の考えもしっかり形にして残しておきましょう。エンディングノートや遺言書などを活用し、もしものときに自分の意思が伝わるよう準備しておけば、残された人が迷わず行動できます。

また、地域や友人とのつながりを持っておくことも大切です。支え合える関係を築いておくことで、将来の選択肢と安心感が広がります。

【家族がいる場合】情報共有とライフプランニングを重視

ご家族がいらっしゃる場合、終活は「自分のため」だけでなく、「家族のこれから」を見据える行動にもなります。財産や保険の内容、医療・介護に関する希望を共有しておくことは、ご家族の判断を助ける支えになります。

また、30代の終活では、出産や住宅購入など、今後のライフイベントに向けた計画――いわゆるライフプランニングを考えることも欠かせません。終活は、日常の延長にある将来を、ご家族と一緒に考える貴重な機会にもなるのです。

6.30代の終活は“正解探し”ではなく“納得”の積み重ね

ライフステージが多様化してくる30代。SNSを開けば、友人や同僚の充実した生活が、まるで人生の「正解」のように見えることもあるでしょう。

しかし、終活において、そうした他者の「正解」を追い求める必要はありません。大切なのは、「こうすべき」と決めつけるのではなく、「これなら自分らしい」と感じられる選択を一つひとつ重ねていくことです。

たとえば、自分の大切なものを10個書き出してみるだけでも、価値観や人生観に気づくきっかけになります。そこから、何を守り、どう生きたいのかという自分なりの軸が見えてくることもあるでしょう。30代のうちからこの軸を大切にすることが、後悔の少ない人生へとつながっていくのです。

7.30代の終活に関するQ&A

8.30代の終活は、自分らしい生き方を見つめるきっかけに

30代は、まだ終活には早いと思われがちです。しかし、転職・結婚・育児・親の介護など、人生の転機が重なるこの時期だからこそ、終活が「これからの生き方」を考える貴重なきっかけになるともいえます。

「どう逝くか」は、「どう生きるか」につながっています。焦らず、自分にできることから終活を始めていくことが、納得のいく人生を形づくる第一歩になるでしょう。

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